東京地方裁判所 平成元年(ワ)6080号 判決 1992年2月12日
主文
一 被告は原告に対し、金二二五〇万円及びこれに対する平成元年五月二五日から支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は仮に執行することができる。
理由
第一 請求
被告は原告に対し、金八三三九万四四〇〇円及びこれに対する平成元年五月二五日から支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 本件は、パチンコ店を営む被告と景品交換業務を行う契約を締結した原告が被告に対し契約に基づく売掛代金及び契約の不当破棄による損害賠償を求めた事案である。
二 争いのない事実
1 原告は、不動産の売買、仲介、管理等を目的とする株式会社(商業登記簿謄本)であり、被告は、サッシの加工、販売、書画等の売買、貨物自動車運送事業、パチンコ等の遊技場の経営等を目的とする有限会社(商業登記簿謄本)である。
2 原告と被告は昭和六三年一〇月五日、次のとおり、パチンコにかかわる交換景品の売買に関する継続的取引契約(以下「当初契約」という。)を締結した。
一 原告は、被告が経営するパチンコ遊技場「パチンコキューホー」(群馬県新田郡《番地略》所在、以下「本件パチンコ店」という。)の景品である商品ブローチ(大)及びコイン(小)を不特定多数の遊戯者からブローチ(大)については一個金一〇〇〇円で、コイン(小)については一個金一〇〇円で仕入れ、これを被告に対し、ブローチ(大)については一個金一六〇〇円で、コイン(小)については一個金一六〇円で、それぞれ売り渡す。
二 被告の原告に対する代金の支払いは、原則として毎月一日、一〇日、二〇日に持参又は振込みにより行う。
三 原告は被告に対し、ブローチ(大)一個につき金四〇〇円、コイン(小)一個につき金四〇円の割合による割戻金を、毎月末日締めで翌月五日払いの原則で支払う。
四 原告は被告の本件パチンコ店の経営のため、原告の社員三名を出向形式で派遣し、被告はその給料相当額を原告に支払う。
五 原告は被告の建物の一部を景品交換所として賃借し、一か月金八万円の賃料(水道光熱費を含む。)を被告に支払う。
3 原告は、当初契約に基づき本件パチンコ店で景品交換業務を行い、昭和六三年一〇月分の原告の利益(原告が被告に売り渡した代金から契約に基づく割戻金を控除した残額)は合計金二五八九万四四〇〇円となつた。
4 これに対し、被告は原告に対し、昭和六三年一〇月分として金二五〇万円を支払い、同年一一月七日、原告と被告は、被告の売上金額にかかわらず、被告は原告に対し、金五〇〇万円以上七〇〇万円未満の金額を毎月末日までに支払うこと及び平成元年四月まで原告は被告に協力する目的で各月金五〇〇万円を限度金額とすることを合意した。(以下「一一月契約」という。)。
5 被告は、昭和六三年一一月分から平成元年一月分まで各月金三五〇万円、同年二月分から四月分まで各月金五〇万円を支払つた。
6 被告は、平成元年四月ころ、原告が経営する景品交換所の鍵を取り替え、自ら景品交換業務を開始した。その際、被告が原告に貸していた金一〇〇〇万円を被告は原告の換金場所において事実上回収した。
三 原告の主張
1(当初契約及び一一月契約に基づく未収金)
原告は被告に対し、当初契約に基づき、昭和六三年一〇月分として金二五八九万四四〇〇円の支払いを、一一月契約に基づき、昭和六三年一一月分から平成元年四月分までの未収金として金一五五〇万円の支払いを求める。
2(景品交換所無断侵入による契約の不当破棄による損害賠償)
平成元年四月一二日ころ、被告は原告が借り受けていた景品交換所に無断で侵入し、自ら景品交換業務を行い、一一月契約を不当に破棄した。原告が事業転換をするには最低六か月の猶予期間が必要であり、その間原告は右契約の上限である一か月金七〇〇万円の利益を得ることができたから、右被告の契約破棄により合計金四二〇〇万円を得べかりし利益を失つた。
四 被告の主張
1 詐欺による取消
原告は被告に対し、被告の無経験、軽率に乗じて、六割増しで買い取るのがパチンコ業界の相場である、手軽に売却できる景品と交換する客は少ないと説明し、原告をしてその旨を誤信させたもので、被告の当初契約についての意思表示は原告の詐欺によるものであるから、被告は原告に対し、平成元年八月二八日本件口頭弁論期日において、当初契約を取り消す旨の意思表示をした。
2 暴利行為による無効
当初契約及び一一月契約は、いずれも被告の軽率、無経験に乗じて大きな利益を得ようとした原告の行為に基づくもので、暴利行為であり、公序良俗に反するから無効である。
3 錯誤による無効
当初契約は、パチンコ業界に全く知識のない被告が締結したもので実情にそぐわない、途方もない内容のものであるから錯誤により無効である。
一一月契約は、被告代表者が被告の経理内容に配慮せず、適当に原告と交渉して金額を決めたものであるから、錯誤により無効である。
4 一一月契約の変更の合意
平成元年一月末ころ、原告と被告とは、被告が原告に金一〇〇〇万円を貸し付け、原告はこれにより換金業務を行う旨及び被告は原告に換金業務の手数料として金五〇万円を支払う旨の契約が成立し、平成元年三月末ころ、原告は換金業務をしなくなり、被告は換金場所において右金一〇〇〇万円を回収した。
五 本件の争点
1 当初契約の無効取消原因の存否
2 一一月契約の無効原因の存否
3 一一月契約の変更の合意の存否
4 契約の不当破棄による損害賠償請求権の存否
第三 当裁判所の判断
1 当初契約の無効取消原因の存否
(一) 当初契約の締結の経緯
括弧内記載の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告は元千成商会の名称であつたが、昭和六三年ころ、現在の被告の名称に変えて、当初契約時の代表者才木秀義、現在の被告代表者溝呂木雅之、発足当時の代表者金木章三らが中心となつてパチンコ店の経営をすることになつた。才木らはパチンコ店経営を始めるに当たつて、専門的知識をもつパチンコ店経営者らからそのノウハウを聞くなどした。溝呂木も遊戯学院に一週間ほど通い、釘の調整方法、営業方針などを教わつた。そして、本格的にパチンコ店を始めるに当たり、才木が代表取締役に就任することになつた。
(2) 原告代表者石坂は、才木が大学の先輩であつたことから被告がパチンコ店を始めること、換金業務を営むものを必要としていることを聞き、やらせてほしいと申し入れたところ、原告が客から買い取つた商品を被告が買い取るか、その決済の期間を一〇日サイトとすること、被告のパチンコ店従業員として三名派遣すること、換金所の賃料として金八万円、まほろば福祉協議会に金七万円を支払うことなどの条件が呈示され、石坂としては、一〇日サイトでは資金の準備が一億円前後必要となることから、原告の利益を六割の三分の一より少なくてよいから決済期間を三日程度にするよう求めたが容れられなかつた。他方、被告も大井という元パチンコ店マネージャーの意見も聞き、契約内容については役員間で相談して原告と契約することを決定し、被告が原告に呈示した前記条件をすべて取り入れた上で、前記内容の当初契約を締結し、継続的取引契約書を作成した。
(3) 被告は右契約に基づいて、昭和六三年一〇月一九日から本件パチンコ店の営業を開始したところ、わずか実質一一日間の営業で、被告が原告に支払うべき金額が金二五八九万四四〇〇円(一日当たり約金二三五万四〇〇〇円)になり、被告は原告に契約の見直しを申し入れた。
(二) 当初契約の詐欺による取消について
以上の事実によれば、本件当初契約を締結するに当たり、原告は資金繰りが厳しいことから、利益率を下げても決済期間の短縮を求めていたことが窺われ、被告が主張するようなことさらに被告を欺く言動が原告にあつたと認めるに足りる証拠は存在せず、また、被告も当初契約を締結するに当たつては、自らはパチンコ店経営の知識経験に乏しかつたとは言え、パチンコ店経営の経験者の意見を聞き、原告が遊戯客から買い取る商品(ブローチ、コイン)の金額の二割を原告に支払うことを相当と認めた上で、契約したものと認められ、そうすると、当初契約における意思表示が詐欺によるものとは認められず、これを取り消すことはできないというべきである。
(三) 暴利行為による無効について
前記認定の事実によれば、当初契約に基づき被告が原告に支払うべき金額は一〇月一九日から同月三一日の間(実稼働日数一一日)で金二五八九万四四〇〇円であり、月間(実稼働日数二六日)にすると、六一二〇万四九四五円となるのであり、原告の主張によれば本件の一か月平均経費が約一六五万円であることを考えると、実質月額六〇〇〇万円近い利益となるのであり、通常、経費を除いた換金業務の利益率が換金商品総額の一・五ないし三パーセントであることからすると、通常の一〇倍前後の利益となるのであつて、少なくとも客観的かつ結果的には、その業務の内容に比べ暴利と言える利益となつていると認められる。
ところで、一般に暴利行為というためには、ただ結果として支払うべき金額が高額となつたというのみでは足りず、他人の窮迫、軽率、無思慮、無経験などに乗じて、当初から客観的に甚だしく不相当な財産的給付を約束させるなどの行為が必要であると解されるところ、前記認定のとおり、原告はこれまでに換金業務の経験はなく六割の三分の一という割合が非常に利益が出るという程度の認識はあつたものの、原告としては利益率よりもサイトの短縮を希望していたのであり、被告の窮迫あるいは軽率、無思慮、無経験に乗じる意図があつたものとは認められず、また、原告にどの程度の実質的な利益となるかは、あらかじめ決つているわけではなく、当該パチンコ店における出玉率、換金の対象となる景品(本件ではブローチとコイン)と出玉を交換し、更に原告の経営する換金所で現金化する客の質及び量によつて変動するものであり(もし出玉率を低くすれば、換金化する客の量は減少し、遊戯客の総数がそのために低下して行けば、パチンコ店の利益が低下すると同時に原告の利益も低下し、費用を大幅に上回るような収益を得られない結果となることも十分に有り得る)、あらかじめの予測がかなり困難であることからすると、当初契約の原告の取得すべき割合のみをもつて、直ちに暴利行為として公序良俗に反するとまでは言いがたく、他方、被告においてもパチンコ店を開業するに当たり、専門的知識を有する者の意見も聞いた上で、被告の方から契約条件を細かく呈示しているのであり、原告と比べて無思慮、無経験であつたとは認められず、その他本件各証拠を検討しても、暴利行為として民法九〇条に違反する事実を認めることはできない。
(四) 錯誤による無効について
前記のとおり、当初契約は公序良俗違反とまでは言えないものであるが、しかし、一〇月の結果は、被告にとつて予想外に膨大な支払いとなつたもので、通常開店当初は出玉率をよくする結果、利益が上がらない半面、換金量も多くなることを考慮に容れても、今後当初契約の比率で原告に支払いを継続することが不可能であることは、明らかであり、また、後記のとおり、その後僅かの間に、特に異論もなく、原告が取得すべき金額を五〇〇万円ないし七〇〇万円の範囲に変更しており、その金額は当初契約による一〇月の実績のおおむね一〇分の一に過ぎないこと及び通常景品交換業務の利益率は換金額の一・五ないし三パーセント程度であること、当初契約ではそうした利益率の相場を十分に認識した上で二割と決めたものではなく、むしろ、通常でもその程度の割合であろうとの誤つた認識に基づく意思表示であつたと窺えることなどを併せ考えると、被告には原告に支払うべき金額について重大な錯誤があつたものと認められ、相当と認められる金額を超える部分については、合意の効力は生じないものと解するのが相当である。そして、後記のとおり、一一月契約において、毎月金七〇〇万円ないし五〇〇万円の支払いが相当であるとして改めて合意された経緯を総合勘案すると、少なくとも右金額の上限である金七〇〇万円を超える部分については、錯誤により無効であると解するのが相当である。
以上によれば、被告は原告に対し、当初契約に基づき金七〇〇万円を超える部分については、錯誤により無効であるから、その代金を支払う義務はないものと解すべきである。
2 一一月契約の無効原因の存否
(一) 一一月契約の締結の経緯
括弧内記載の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告は、当初契約に基づく一〇月分の原告に対する支払い額が思つたよりもものすごい数字となつたことから、代表者才木は、他の取締役や現場の人間とも話し、この数字ならいけるという金額を出し、原告に呈示し、一一月契約を締結し、契約書を作成した。右契約書は四箇条からなり、当初契約に基づいて約定すること(第一条)、被告は原告に対し月額金五〇〇万円以上七〇〇万円未満の金額を支払うこと(第二条)、原告は被告に協力するため平成元年四月まで月額金五〇〇万円を限度額として支払うこと(第三条)、第二条による支払いに支障を生じた場合は別途協議すること(第四条)を規定している。
(2) 被告は、昭和六三年一一月から平成元年一月まで、各月金三五〇万円ずつしか支払えなかつた(争いのない事実)。
(二) 暴利行為による無効について
以上によれば、一一月契約において被告が原告に支払うべき金額は、当初契約の約一〇分の一(換金景品価格の二パーセント程度)であり、客観的にも暴利とは言えず、また、以上の金額の決定の経緯からすると、原告に暴利についての主観的意図もなく、被告は十分に実績に基づいて検討して支払いできるとの判断で合意したものであると認められ、暴利行為により公序良俗に違反するとは認められない。
(三) 錯誤による無効について
右認定の事実によれば、被告は当初契約の原告に対する支払いの割合が高すぎたことを認識し、十分に検討した上で金額を決定したものと認められ、当時の原告代表者に錯誤があつたものとは認められず、また、原告に対し月額金三五〇万円しか支払えなかつたのは被告内部の問題である釘の調整にも問題があつたことが窺われ、その点で予想に反する結果となることがあつたとしても、錯誤による無効を認める余地はない。
3 一一月契約の変更の合意の存否
(一) 一一月契約以降の経緯
《証拠略》によれば、次の事実が認められる。
(1) 平成元年一月ころ、銀行からの借入れの物上保証人である溝呂木現被告代表者の母に保証人となつてもらうために被告代表者が才木から溝呂木に交代する話が出され、その中で、溝呂木から才木に原告に対する支払いを月五〇万円くらいにするよう求めがあり、才木は原告にその旨を話すことになつた。そして同月末ころ、原告代表者石坂は才木に呼ばれて被告の事務所を訪れたが、その際、才木は石坂に対し、見込みが狂つて来月からは支払えないこと、換金業務を止めるか、一時期の間、月額金五〇万円でやつてくれるかという趣旨の話が出され、併せて、それで継続する場合、今までの一〇日サイトを当日清算にし、原告の資金として被告が原告に金一〇〇〇万円を貸し付けるとの話も出された。石坂は、これを前提として、当面、月額金五〇万円とすることに納得した。そして平成元年二月六日、原告は被告から金一〇〇〇万円を受領し、借用証を作成した。
(2) 右借用証によれば、その弁済については、当初契約及び一一月契約に基づく原告に対する被告支払い金を充当して相殺することとし、年五分の割合による利息をその都度清算する旨が記載されている。
(二) 一一月契約の変更の合意について
以上の事実によれば、平成元年一月末から二月の初めにかけて、原告と被告との間において、当面の支払いを金五〇万円とすること及び決済を毎日とし、被告が貸付の形で金一〇〇〇万円を提供することについて合意がされたことが認められるが、問題は、一一月契約における金額を確定的に月額金五〇万円に変更する旨の合意であつたのか、それとも、当面の支払いを金五〇万円とし、その余の支払いは後日清算する趣旨であつたのか、という点にある。
そこで検討すると、確かに才木証言の中には、二月以降は確定的に金五〇万円以外に債権債務は発生しない趣旨であると解される部分が見られるがしかし、従前の契約である当初契約及び一一月契約を完全に白紙に戻すのか、今までの未払い部分についてどうするかなどについて、詰めて話がされた形跡はなく、才木と原告代表者との間では当面五〇万円しか支払えないが、換金業務を継続するか辞めるかという形で話が出されたに過ぎず、才木自身月五〇万円で換金業務を継続することが困難であることは理解していたというのであり、その後は代表者が才木から溝呂木に交代し、原告と溝呂木との間で話が続いて行くのであるが、溝呂木は才木と原告代表者との間で二〇万あるいは五〇万円で原告が換金業務を続けるということしか聞いておらず、両者の間で、その余の支払いについて特段の合意がされた事実を認めることができない。そして、本件換金業務に要する費用を考えると、月額金五〇万円では経営が成り立たないことは明らかであり、一〇月の実績を前提とすると、当初契約の一パーセントにも満たない金額であつて、終期の定めもなく、そのような大幅な金額の変更に応じるとは通常は考えにくいこと、現在被告は、パチンコ店自らが換金業務を行うことを止め、別の換金業者に月額金二二〇ないし二四〇万円を支払つていること、原告代表者は金一〇〇〇万円を被告から借り受けるに際して当初契約及び一一月契約が生きているとの前提で考えていたことなども総合考慮すると、終期も定かでないまま、赤字になることが明らかな低い金額でかつ、その余の清算もないまま換金業務契約を継続する意思を原告代表者及び被告代表者である才木が有していたと推測することはできず、合意の趣旨を合理的に解釈する限り、基本的には一一月契約に基づき、暫定的に支払う金額を月額金五〇万円とし、後日清算する意思であつたと解するのが相当である。したがつて、右合意により、一一月契約における金五〇〇万円が金五〇万円に変更され、その余の被告の原告に対する債務をすべて免除したものであるとの被告の主張は、これを認めることはできず、被告は原告に対し、平成元年一月以降も金五〇〇万円から金五〇万円を控除した残額を支払う義務があり、後記のとおり、平成元年四月、被告自ら原告の換金所で換金業務を開始したことにより、原告と被告との継続的契約関係は終了したものと解するのが相当であり、したがつて支払い猶予の期限は既に到来したものというべきである。
4 契約の不当破棄による損害賠償請求権の存否
被告代表者の供述によれば、平成元年四月ころ、開店時間までに原告の従業員が換金業務を開始しなかつたので、被告の従業員が換金所に立ち入り、自ら換金業務を開始したこと、そして被告が換金業務を開始したことで換金所内の現金は被告の金になつていると判断し、それから一〇〇〇万円の貸金を回収したと理解し、また、そのような理解のもとで換金所の鍵を取り替えたこと、その際、被告代表者は原告石坂社長に電話ですぐ来て下さいとお願いしたが、四時ごろになると言われたので、自ら換金業務を行つたことなどの事実が窺われるのであるが、これに対し、原告代表者の供述によれば、原告の従業員がもうやめたいというので待つように申し述べ、当日の昼ころ到着すると、その元従業員は朝から既に被告により鍵が取り替えられ、中に入れなくなつた旨を述べており、原告代表者が被告に鍵を開けるよう要求しても開けず、被告代表者は、その際、これからはうちでやるというので、原告代表者はその日は引き上げたことが窺われるのであるが、いずれにしても本件は原告が換金所を賃借し、同所において換金業務を行い、併せて換金した結果入手したブローチ又はコインを被告に売却し、その利益のうち一定割合又は一定金額を被告が原告に支払う継続的な契約関係であり、換金業務を正常に実施することが契約上原告の被告に対する義務となつているかは定かではなく、仮にそのような義務を解釈上認めうるとしても、原告が換金業務を全面的に放棄した事実はなく、一時的に換金業務が滞つたことが窺われるに過ぎず(その責任がいずれにあるかは別として)、また、被告代表者の供述するとおりであるとしても、電話で契約関係を合意解約したとまでは到底認められないのであるから、原告の占有を排除し、鍵を取り替え、原告の換金業務を不能にした被告の行為は、換金場所を提供し原告の換金業務を継続できるようにする被告の債務を履行しなかつたものというべきであり、被告は原告に対し、これによつて生じた損害を賠償すべき義務があるというべきである。
そして、原告は、事業転換の猶予期間として六か月が必要であり、換金業務を継続すれば、一一月契約に基づき上限七〇〇万円の支払いを受け得たのであるから、その得べかりし利益総額金四二〇〇万円が損害であると主張するが、本件契約には契約を解除するに当たつて六か月前の通告義務は付されておらず、そもそも当初から契約内容に無理があり、前記のとおり、平成元年一月には、月々金五〇万円を受け取るか解約するかという話も出され、その後も改善は余り期待できない状況にあつたものであり、本件契約の趣旨が数か月にわたり原被告を拘束し解約を一切認めないほどに強いものであつたとは認めがたいのであつて、ただ一一月契約では、被告が受領すべき金額を月額の定額と定めており、換金所の賃料やまほろぼ福祉協議会への支払いも月額で定められていることからすると、少なくとも月の途中での一方的な解約は許されず、したがつて被告は原告に対し、一方的に契約を破棄し、原告の業務を不能にした日《証拠略》によれば四月一三日)の属する月である平成元年四月分については、その全額が被告の債務不履行と相当因果関係のある原告の損害ということができ、一一月契約によれば、原告が取得すべき金額は金五〇〇万円であるから、被告は原告に対し、右金額を債務不履行による損害賠償として支払う義務がある(厳密には四月一二日までは契約上の売買代金であり、四月一三日以降の分が損害賠償金である)と解すべきである。
第四 結論
以上によれば、原告の被告に対する請求のうち、昭和六三年一〇月分として金七〇万円及び同年一一月分から平成元年四月まで、毎月金五〇〇万円の約定金(一部損害賠償金)の合計額である金三七〇〇万円から既に受領済みである合計金一四五〇万円を控除した残額である金二二五〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成元年五月二五日から支払い済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用はこれを五分とし、その一を原告の負担とし、その余の被告の負担とし、主文のとおり判決する。
(裁判官 大塚正之)